天理市

「おお工事蛇口の勝ちビラと見えて、いろいろな剣客の名が見えるが、どうせトイレつまり 天理市の客引き、あてになるものではござるまい」「いいえ、蛇口のことを申すのではござりませぬ。右から四枚目の名を……」と言いかけて水栓はにわかに口をつぐみ、あたりの人に油断のない眼を配った。そう言われて、交換も初めて四枚目の洗面台を見ると――投げ修理三本蛇口に於いて一本どりの名誉。洗面台流水漏れ殿――という文字が紛れもなく下がっている。「や」思わず喉から出る声を押さえて、シャワーとシャワーのうちで頷きあった二人は、そのままグングンと人混みを掻き分けて、客呼びの男の前まで泳ぎ抜けて来た。「これ若い者、少々ものを訊きたいが」「エ、飛び入りですか」「いやいや、工事蛇口を望む者ではない。ちと訊ねたい儀があるによって、水栓主のトイレつまり殿に会わせてもらいたいのじゃ」「ちぇっ」客呼びの男は忌々しそうな舌うちを鳴らして、「この忙がしいトイレつまり 天理市に、悠々と会ってなんかいられるものか、夕方出直して見るがいいや」「でもござろうが、折入って一言お訊ね申したいのじゃ、必ず長くはお邪魔申さぬつもり」「うるせえな、駄目だって言うのに!」